2023/01/24

旧日本陸軍御用達の九七式歸心計算尺

米国から購入した初めての20インチ尺。

陸軍の要請で作られた特殊な計算尺で、測量困難な三角点Aから偏心した仮の観測点Bを置いた場合にAでの角度に補正する計算を「帰心」計算 (Eccentric Reduction) というらしい。「帰心」は古い言い回しなのか検索結果は少なく、偏心補正 (Eccentricity Correction) と同義と思われる。当然、受注生産だろうから数はかなり少ない筈だ。日頃モデルのチェックで勝手にお世話になっている Paul Ross さんの Hemmi Slide Rule Catalogue Raisonné の second page (型番不明のリスト) には "Triangulation Rule, ca 1940" として紹介されている珍品。ケースに筆字、縦書きの楷書「九七式歸心計算尺」はなかなかの達筆である。九七式とは皇紀2597年の97の意 (西暦に660足すと皇紀になる)。軍用のアイテムにはやたらとこのような〇〇式と名の付くものが多い。では陸軍で実際に使用された形跡のあるこのアイテムが戦前、戦中、戦後いつどのようにしてアメリカ人の手に渡ったのだろうか。戦地で接収したものか、戦後に日本人が贈与したものか、もっと後にコレクタアイテムとして買われたのか、実に興味深い。

このモデルは1936年に考案試作したものである事が、陸軍の機関誌で大前憲三郎氏 (当時は工兵中佐、最終階級は陸軍中将) により紹介されている。カーソルは本来は2個らしいが1個は欠品していた。

器種
概要
タイトル 旧日本陸軍御用達の特殊計算尺
ブランド HEMMI
型番 なし (九七式歸心計算尺/九七式帰心計算尺)
ロゴ 〇”SUN”〇 HEMMI
〇は太陽に光線 (クサビ形長短6本)、雲 (2本線)、左右同一
サイズ 20 "
スタイル //Closed||
システム Surveying
製造時期 1937
製造国 日本 (軍用だからか、MADE IN JAPANは入っていない)
構造 【ヘンミ片面G4】(ただし裏窓が特殊な位置)
セルロイド面のリベットなし
溝:セルロイド
裏窓:長丸穴タイプ (ただし左から1/3の場所に一か所のみ)
接合版:薄アルミ
寸法
[mm]
長さ 567
48
厚さ 14
重量
[g]
総重量 256
カーソル 2x10
材質 本体 竹、セルロイド
接合版:アルミ
ネジ:真鍮
リベット:アルミ
カーソル 【フレーム+ランナー】
フレーム:ステンレス
ランナー:プラスチック
鉄板バネ:鉄
ネジ:真鍮
ウィンドウ:ガラス

目盛り
表面 e
[α, S, LogS]
X
1'~20'
裏面 -
[L, 3√N, √N, T, N]
-
計・備考 11尺 (*1)
その他
目盛り
ゲージ
マーク
なし
定規 上 cm
下 inch
付属品 ケース 牛革ベルト式(バックル破損)、580mm
マニュアル おそらく存在しない (あっても陸軍内資料)
その他
備考 特許等 なし
その他 牛革ケースベロの裏に個人名か部隊名だろうか「京」の印がある。
折角牛革なのに革同士は縫い合わされておらず、厚紙の台紙に革を縫い、それを箱型に接着したもののようであるため、おそらく立てた状態で差し入れた際の衝撃に耐えられず底が抜けていた。簡単な修繕済み。
また、欠品しているが、裏面テーブルカードがあるらしい。

*1 帰心化計算でe尺にm、S尺にkm、α尺に° (移高化計算ではαは90°) をセットするとX尺に補正値を秒で得るという仕組み。要はルーティーン的な単位換算したりラジアン秒値を使ったりの作業を省力するもののようである。e尺、X尺、N尺は実質3単位目盛りと同じ (通常はK尺) である。1'~20'尺は秒分換算用。しかしα尺の上側の余白、もったいない気がする。

常態

表面、溝

裏面

表面左

表面右

スライド裏面左

スライド裏面右

ケースベロ裏に「京」


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