2023/01/01

HEMMI創成期のリテーラー玉屋商店のTAMAYA Co. 1941

こちらは御年80歳の英国の方から購入。その方の父親のものだったらしい。

カーソルガラスがなかったのでCDケースを裁断して作成しヘアラインも青にしてみた。裏面テーブルカードがきれいだったのは非常にうれしい。

この時期にC,D尺にも初めてπのゲージマークが追加された模様。銘以外でHEMMI No.1と異なるのが、πの下部分の2本線の違いだ。よく見ればHEMMIが釣り針のような形「し」、TAMAYAは末広がり「ノ」になっている。

興味をそそるのは、1925年に大倉龜氏が経営に参画し輸出が拡大する前、極初期型がどのようにして海外に渡ったかという事である。イギリス、フランス、アメリカ、カナダ、中国の特許については1917年頃から出願を始めて、1920年~1921年頃までには登録されている。いち目盛り職人であった逸見治郎氏だけでは成しえない筈だ。中村浅吉商店をはじめ、この玉屋商店、その他役人の協力があったのは間違いないだろう。ちなみに、氏は古巣の中村浅吉商店よりも先に玉屋商店と取引を始めたようで、玉屋商店のカタログ第3版 (1912年10月) にDPIカーソル版がNo.1937として掲載している。中村浅吉商店のカタログは 第2版 (1913年6月) ~第3版 (1922年2月) が長く空いているので実態は不明だが、第3版でNo.1480として現れている。

ところで、特許22129には製品に採用されていない記述が幾つかある。
  • 溝部分はセルロイドでなく牛骨板
  • 滑尺の両端も牛骨板でさらに「転軸」が埋め込まれ目盛り合わせの微調整を助ける機能
  • カーソルにも目盛りの中間を目見当するための工夫(原理としては既知)
逸見治郎氏の試作にはそのようなのものがあったのだろう。だが想像するに、材料費や加工の手間を考慮すると量産向きではなさそうで採用しなかったのは賢明な判断かもしれない。実用新案59732の「ソロバン付き計算尺」というのも面白い (後のFABER CASTELLのAddiatorやソロバン付き電卓も同じ発想だが逸見治郎氏が最も早く思いついた) が実際に売れたのだろうか。もしそれらの現物が残っているものなら見てみたい。それは間違いなく博物館級の尺だ。

器種
概要
タイトル HEMMI創成期のOEM - TAMAYA 1941 (*1)
ブランド TAMAYA
型番 1941 (HEMMI No.1のOEM) (*2)
ロゴ TAMAYA & Co.
サイズ 10 "
スタイル //Closed||
システム Mannheim
製造時期 1912/5/11 (特許取得後) ~ 1917/12 (ロゴ制定前)
製造国 日本
構造 【ヘンミ片面G1-極初期型】
リベット:正面、エッジ、滑尺の両端すべて
溝:セルロイド
裏窓:長丸穴タイプ
接合版:真鍮錫メッキ
寸法
[mm]
長さ 280
33.2
厚さ 10
重量
[g]
総重量 82
カーソル 4
材質 本体 竹、セルロイド
接合版:真鍮
ネジ:鉄
リベット:アルミ
カーソル 【初期型アルミ矩形】
横長なのでオリジナルでない可能性。
ガラスがなかったのでプラで自作。
フレーム:アルミ
板バネ:鉄
ウィンドウ:ガラス

目盛り
表面 A
[B, C]
D
裏面 -
[S, L, T]
-
計・備考 7尺
目盛線タイプ:Railway track
その他
目盛り
ゲージ
マーク
【A,B尺】
π=3.1416
M=1/π: A,B尺での連続計算でπを含む計算に使用。
【C,D尺】
π=3.1416
C=√(4/π): C,D尺の直径からA,B尺に面積を計算。
C1=√(40/π): Cと同様だがA,B尺の2単位目 (10~100) に対応。
定規 上 inch
下 cm
溝延長 cm
付属品 ケース 濃緑色の布紙張り厚紙筒、長丸型、鞘方式 (合わせ目6:4)、285mm。
マニュアル 欠品 (存在自体不明)
その他
備考 特許等 滑尺表左端に「特許」
溝下中央に「PATENT №22129」
その他 使用者独自のゲージマークが赤で入れてある。
A,B尺に11.43辺り=おそらく鉛の比重 (4℃基準) (*3)

*1 合名会社玉屋商店商品目録 第3版 (1912年) ではDPIカーソルの1937が4円で掲載されている。第4版 (1915年) では1941が3円30銭、1937が3円70銭。ちなみに舶来物のA.W.FABERのDPIカーソルの尺は6円50銭。当時の企業物価指数やコメの値段から類推すると1円が現在の1,000円~1,500円の価値なので、創成期のHEMMI No.1は概ね4,000円前後のアイテムだったようである。玉屋品番で分かる通り、DPIカーソル版の方が先に発売された模様。しかし、1937の挿絵の製作が間に合わなかったのか、図はどうもA.W.FABER 367のようである。Patent No.56774も逸見治郎氏のものではなく誤記と思われる。
*2 順序は推測であるが極初期型~初期型は同時期に以下のような銘で存在するらしい。「じぇいかん」さんのブログやISRM、Hemmi Slide Rule Catalogue Raisonné、The Sphere Research Slide Rule Site等を参考にさせていただいた。
  1. J.HENMI.TSUKIJI.TOKYO.JAPAN (1912年以前)
  2. J.HENMI.TOKYO.JAPAN(1912年PAT番号発行後)
  3. A.NAKAMURA.NIHONBASHI.TOKYO #1480 (1912年PAT番号発行後?)
  4. 無印(スライド溝中央にPAT番号のみ)
  5. 英 Norton & Gregory Ltd(滑尺左に特許、スライド溝中央にPAT番号)
  6. TAMAYA & Co. #1941(1913~27年)(5と同じ場所) ←本投稿の尺
  7. K.HATTORI (1917年以前)
  8. 米 Hughes-Owens Co. #1768(1914年以降)
*3 鉛のゲージマークは偶然か、流行か、無印HEMMI No.1でも同様に入っていた。やはり鉄ではなく鉛?の比重が重要らしい。

常態

表面、溝

裏面

ケース表面

ケース裏面

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