2023/08/14

HEMMI ポケットサイズのマンハイム

4インチのポケットサイズのマンハイム尺No.30、No.32は同一型番としては歴史が長く、1930年からあるロングセラーモデル。最も古いタイプには両端のリベット止めや、トラディショナルな位取り備忘マーク「←±|∓→」「Quot +1」「Prod -1」が残っている。No.32のカーソルはガラス製のレンズが装着されており本体に比して重みがあるため、ポケットにしまう際はレンズを下にした方が落ちにくいだろう。小型なので目盛りを精密に読むのは厳しく、作業の現場で概算を得るために使うものと想像する。新しいタイプではアクリル製の一体化レンズカーソルで軽量化されている。私の父も持っていた。(実は私のコレクションの第一号がこの親父の形見だ)。No.32やNo.2634はノベルティとしてもよく利用されている。ここで紹介している最も古いNo.32のケースはエジソン蓄電池カンパニーとなっているが、90年以上前からノベルティとしての用途があった事実と、経年の割に状態が非常に良い事に驚いた。

器種
概要
タイトルHEMMI ポケットサイズのマンハイム
ブランドHEMMI
型番①③④⑤⑦No.32
②⑥No.30
ロゴ①ストック裏下にHEMMI 〇"SUN"〇、アルミプレート裏にパンチ●"SUN"●
②ストック裏下に〇"SUN"〇 HEMMI、アルミプレート裏にエンボス●"SUN"●(但し裏返しは水平方向にフリップ)
③ストック裏下に〇"SUN"〇 HEMMI
④ストック裏下に〇SUN〇 HEMMI
⑤⑥ストック裏上に〇SUN〇 HEMMI
⑦ストック表右上に〇SUN〇 HEMMI
①引用符""は内向き
②③引用符""は垂直
〇は太陽に光線 (クサビ形長短①③6本、②④8本、⑤⑥⑦フラット長短8本)、
●は太陽に光線 (クサビ形長短8本)、
雲 (2本線)、左右同一
サイズ4 "
スタイル//Closed||
システムMannheim
製造時期①1930年~1932年7月30日以前 (*1)
②1930年代中期(構造は古いがPAT表記が無い)
③1930-43?
④1947-52 (*1)
⑤1963/8 (NH)
⑥1964/9 (OI)
⑦1968/9 (SI)
製造国①②③⑤⑥⑦日本 ④MIOJ (*2)
構造①②【ヘンミ片面G5薄型リベットあり】
③④⑤⑥⑦【ヘンミ片面G5薄型】
溝:接合版露出
裏窓:⊃⊂切欠+右のみ透明セルロイド
接合版:アルミ
寸法
[mm]
長さ①②③122
④⑤⑥⑦120
①20
②20.8
③20.2
④⑤⑥⑦21.5
厚さ③5.5
④⑤⑥⑦6
重量
[g]
総重量①③④16
⑤18
⑥15
②⑦13
カーソル①③④5
⑤6
⑥3
②⑦2
材質 本体竹、セルロイド
接合版:アルミ
リベット:アルミ
カーソルフレーム:①B型フレームレス、②③④⑤⑥ステンレス、⑦レンズ一体型アクリル
板バネ:鉄
ウィンドウ:①②③④⑤⑥ガラス
ランナー:①セルロイド
レンズ:①(ウィンドウに接着)③④⑤ガラス、⑦アクリル

目盛り
表面A
①②③[B, C]、④⑤⑥⑦[B, CI, C]
D
裏面-
[S, L, T]
-
計・備考①②③7尺
④⑤⑥⑦8尺
その他
目盛り
ゲージ
マーク
π=3.1416【①②③⑤⑥⑦A,B,C,D尺、④C,D尺】
C=√(4/π): C,D尺の直径からA,B尺に面積を計算。【⑤⑥⑦C尺】
定規①②③上inch、下cm
④上inch
⑤⑥⑦上cm
付属品 ケース③薄豚革
④晒布に黒コーティング
①②⑤⑥⑦豚革
マニュアル
その他③裏テーブル
⑦箱
備考 特許等①ストック裏下に日英仏PAT、カーソルにPAT No.51788
その他①ケースに型押し金文字あり、エジソン蓄電池カンパニーのノベルティ

*1①エジソン蓄電池カンパニー(1901年5月27日~1932年7月30日)のノベルティより。その後はトーマスA.エジソン社の蓄電池部門を経て、1960年7月20日に Electric Storage Battery Company へ売却され、現在の Exide Technologies に至る。
*2④MIOJ="MADE IN OCCUPIED JAPAN"は1947-52年に日本からの輸出品にGHQが義務付けたもの。戦後直後の物資不足が覗われ、ケースは合皮?というより、晒(さらし)布にビニールをコーティングしたような安価な素材のためボロボロになっている。

常態・ケース表面

常態・ケース裏面

表面

裏面


2023/07/01

戦時中の商業用計算尺 HEMMI No.300

年利、月利、日歩の計算と度量衡の換算ができることから、後の商業用 Hemmi Commerce (No.263/No.143) の先祖に当たると思われる。実際に、1941年版の合名会社旭商店の綜合型録に商業用 (新製品) として掲載されている (*1)。No.300の単位は尺、坪、町など、ちょっと古い単位があったり、碼(ヤード)封度(ポンド)と漢字表記だったり、時代を窺える。戦時中の極一時期だけ作られていたと思われ(しかも1941年12月の新発売)、あまり出回らない。これはヤフオクでまとめ買いの中の一本。

器種
概要
タイトル 戦時中の商業用計算尺
ブランド HEMMI
型番 No.300
ロゴ 〇SUN〇 HEMMI
〇は太陽に光線 (クサビ形長短6本)、雲 (2本線)、左右同一
サイズ 10 "
スタイル //Closed||
システム 商業、単位換算
製造時期 1941年頃
製造国 日本
構造 【ヘンミ片面G5薄型】
裏面セルロイド
裏窓:⊃⊂切欠タイプ
接合版:アルミ
寸法
[mm]
長さ 278
33.5
厚さ 8.6
重量
[g]
総重量 56
カーソル
材質 本体 竹、セルロイド
接合版:アルミ
リベット:アルミ
カーソル 【一体型ステンレス】
フレーム:ステンレス
板バネ:鉄
ウィンドウ:ガラス

目盛り
表面 年(G), 月(E)
[月(F), 逆(CI)<, 日(C)]
日(D), M
裏面 [blank]
Edge: cm & inch measure
計・備考 7尺
その他
目盛り
ゲージ
マーク
【M尺】多数の度量衡換算用のゲージマーク
噸、瓲:トン
瓩:キログラム
封度:ポンド=0.45キログラム
貫:3.75キログラム
哩:マイル=1609メートル
碼:ヤード=0.91メートル
呎:フィート=0.3メートル
吋:インチ=25.4ミリメートル
呏:ガロン=3.8リットル
立:リットル
粁:キロメートル
糎:センチメートル
里:=3.93キロメートル
間:1.81818メートル
尺:0.30303メートル
鯨尺:0.38メートル
町:9917平方メートル=0.99ヘクタール
坪:3.30579平方メートル
定規 なし
付属品 ケース 黒のクロス紙張り厚紙、鞘方式
マニュアル 欠品(じぇいかんさんが所有している模様)
その他 裏テーブル
備考 特許等
その他

*1 じぇかんさんがマニュアルをお持ちのようで、そこには「ヘンミ事務用計算尺使用法」と題してある。

ケース、常態

表面、溝

裏面

合名会社旭商店 2601年版綜合型録より(1941年12月) 


2023/03/24

謎のDate-Codeを持つHEMMI No.259

①はオーストラリアの方から、②はヤフオクで購入。No.159の後継で、さらに後にDI尺が増えたものがNo.259Dとなる。

この2本の尺で気になるのが①の3文字 "KI A" や②の4文字 "JG H X" (但し "X" だけ刻圧が強かったのか深く大きい) のDate-Codeだ。何を示すためのものだろうか。RICOHのDate-Codeは2文字目が製造工場を示すが、そのようなものかもしれない。或いは仕向先の可能性もある。工場なら白子以外では渋谷/松山/秩父のうち稼働していたのはどこか、輸出先はどこか、OEM先ならPOST/Hughes-Owens等どの会社と取引していたか等、1959年~1960年当時の販路を調べてみないと判らないが、ここまで書いて気づいた。このモデルは2種類あり、スケール配置が異なり表裏が逆転するため stator の長短も逆 (*1) となっている。こちらは改変されたセカンドタイプだ。単純にそれを示す可能性もある (AlterのAではないか) 。(2023/4/3訂正:後で入手した②の3文字目は"H"であるためAlterの意味ではなさそうである。その後の気づきとして、Date-Code刻印に墨を入れなくなったのは "J"-1959年からのようである。何か関係があるのかもしれない。)他にこのようなCodeを持つ尺はないか、情報をお持ちの方があれば共有いただきたい。

器種
概要
タイトル 機械技術用
ブランド HEMMI
型番 ①No.259 (1st model)
②③④⑤No.259 (2nd model)
ロゴ 〇SUN〇 HEMMI JAPAN
〇は太陽に光線 (クサビ形長短8本)、雲 (2本線)、左右同一
サイズ 10 "
スタイル Duplex
システム Log-Log Duplex
製造時期 ①1952/12 (CL)
②1959/7 (JG H)
③1959/7 (JG H X)
④1960/9 (KI A)
⑤1961/1 (LA)
製造国 日本
構造 【ヘンミ両面、幅広、薄ブレース】
寸法
[mm]
長さ 長:320
短:305
44.8
厚さ 6.8
重量
[g]
総重量 132
カーソル
材質 本体 竹、セルロイド
ブレース:アルミ
リベット:真鍮
カーソル 【ステンレスフレーム】
フレーム:ステンレス
ランナー:プラスチック
板バネ:鉄
ネジ:真鍮
ウィンドウ:ガラス

目盛り
表面 ① (*1)
L, K, DF
[CF, CIF, CI, C]
D, LL0, LL/0
②③④⑤
LL/1, LL/2, LL/3, DF
[CF, CIF, CI, C]
D, LL3, LL2, LL1
裏面 ① (*1)
LL/1, LL/2, LL/3, A
[B, T, S, ST, C]
D, LL3, LL2, LL1
②③④⑤
L, K, A (*1)
[B, T, S, ST, C]
D, LL0, LL/0
計・備考 23尺、xF尺はπ切断。
その他
目盛り
ゲージ
マーク
【C尺】
C=√(4/π): C,D尺の直径からA,B尺に面積を計算。
R=57.2958度=1ラジアン (ρ°と同じ役割)
【CF,DF尺両端】
π=3.1416
【LL2尺右端,LL3尺左端】
e=2.71828
【LL/2尺右端,LL/3尺左端】
1/e=0.367879
定規 なし
付属品 ケース ①革
②紺色厚紙、鞘方式
③紺色厚紙、鞘方式
④牛革型押し、ミシン縫い
⑤欠品
マニュアル 欠品
その他
備考 特許等
その他 カーソル寸法:57x30x11.5

*1 同型番で2種類あり、A尺とDF尺の位置が表裏逆で Stator の長さも長短逆。

①表面

①裏面

①Date-Code="KI A"


②Date-Code="JG H X"

2023/03/04

魚価計算尺と比率計算尺

今回、「魚価計算尺」と「比率計算尺」を紹介したい。というのは最近たまたま「比率計算尺」の実物が発見できたのでそのバックグラウンドを調べてみると同時期に考案された「魚価計算尺」なる興味深い尺があった事が分かったからだ。

①魚価計算尺

東京市産業局商工課小売市場掛の野宗英一郎氏 (*1)、および魚類担当の月岡章郎氏が適正魚価の計算方法の研究から考案し、ヘンミの技師長だった平野氏と共同で特許を取得した。消費者(個人・大量)、小売商人、仲買人、産地、卸売会社、行政監督者が魚の適正価格を分析するのに役立つとされている。実際に試作され新聞にも掲載されたということだ。「比率計算尺」と共に広告も出されたが、当時1円(現在の約1,600円位)という高価さもあってか、結局普及しなかった。野宗氏の「草の根元で――住民の幸福のために行政の理想を求めて――」(1976年) によると、産業局にあったその試作品は残念ながら1945年3月10日の東京大空襲で焼失し、別に残っているとしても特許庁かヘンミの倉庫に埋もれているのではないか、という事だ。また、竹製ではなく円盤型で厚紙のような安価な材料で作れば大いに普及したかもしれない、と回顧している。

計算の対象が魚の値段というところはいかにも日本的だ。価格帯や重さの単位は現在と合わないが、魚種別の歩留まりや流通システムもうまく数値化しておりアイデアとして実に面白い。私の先祖は長崎五島の小漁師だったが、私がそうだったようにこの計算尺にきっと興味を持つに違いない。

使い方は、A尺に価格、滑尺に魚種(形体ごとの歩留まりを考慮した目盛り)を合わせ、卸売の売買差益率をカーソルで合わせて価格を読む、というように「東京市産業時報」の中で詳しく説明されている。

②比率計算尺(身体検査用計算尺)

ヤフオクのまとめ買いの中に入っていた大変珍しい尺。Paul Rossさんの Hemmi Slide Rule Catalogue Raisonné の second page (型番不明のリスト) には "Ratio Rule" として、マニュアルのイメージだけが紹介されているが、その実物が発見された訳だ。身体検査で使う物なので魚価計算尺と比して学校、軍隊、医療の関係機関で需要はあったのだろう。(*2)

もしかしたら古くからある学校の保健室や病院の資料室に、その古びたキャビネットの奥には、まだ眠っているものがあるかもしれない。もし見つけた方がいらっしゃれば、裏面のテーブルカードを(残念ながらこちらの方は剥がれた跡だけが残っているので)是非見せていただきたい。

使い方はスライド上の「合」マークをストック右上の身長に合わせるだけ。あとはスライド上の体重、胸囲、座高からストック左上に身長との比率(比体重 比胸囲 比座高)を読む。身長170以上は一番上の目盛り。低い体重はスライド、ストックとも下側を使う。計算可能範囲は

身長:50-195[cm]
体重・胸囲・座高:14-100 [kg|cm]
となっている。ストック右上のVゲージ(滑尺上の体重100kgのと同じ位置)は用途不明。→その後、説明書より、身長100cm以下の場合に使用するものである事が判明。

器種
概要
タイトル 幻の魚価計算尺と現物が見つかった比率計算尺
ブランド HEMMI
型番 ①魚価計算尺
②比率計算尺
ロゴ ②〇"SUN"〇
引用符""は垂直
〇は太陽に光線 (クサビ形長短6本)、雲 (2本線)、左右同一
サイズ 10 "
スタイル //Closed||
システム ①魚価
②対身長比率
製造時期 ①②1938年頃
製造国 日本
構造 ②【ヘンミ片面G5薄型】
裏面セルロイド
裏窓:⊃⊂切欠タイプ
接合版:アルミ
寸法
[mm]
長さ ②280
②33.2
厚さ ②8.5
重量
[g]
総重量 ②57
カーソル ②5
材質 本体 竹、セルロイド
接合版:アルミ
リベット:アルミ
カーソル ②【一体型ステンレス】
フレーム:ステンレス
板バネ:鉄
ウィンドウ:ガラス

目盛り
表面 ①A価格 (*3)
[B目方:歩留率・正味量 (刺身)、売買差益率、歩留率・切身量]
-
②比体重 比胸囲 比座高 身長 (*3)
[体重 胸囲 座高] (*4)
比体重の続き
裏面 -
①おそらく[blank] ②[blank]
-
計・備考 ①5尺
②4尺
その他
目盛り
ゲージ
マーク
①目方[匁](一人前30、一切25)(*5)
魚種毎の正味量[%](赤貝16、蛤24、鯉31、黒鯛38、ぼら40、鯛41、あわび43、こち45、ひらめ49、めじ51、鮪54、かじき56、鰹鱒61、鰆あなご67、鰻75)
売買差益[%](産地-10、卸売0、仲買10、小売54)
魚種毎の切身量[%](目抜鯛44、中鮪49、鯛52、鮪54、すずき64、鯖鰤67、生鮭70、鰹72、さわら74、新巻鮭77、塩鮭79)
②合(スライド)=ストック上で身長が100cmになる部分
(ストック)=スライド上で体重が100kgなる部分(身長100cm以下で使用)
定規 ②上 cm、下 inch
付属品 ケース ②黒のクロス紙張り厚紙、鞘方式、295mm、蓋120mm
マニュアル ②欠品 (Paul Rossさんのサイトで紹介されている)
その他 ①裏テーブルは表面記載以外の魚種の係数一覧
②裏テーブル欠品(おそらく使用法が記載されていた)
備考 特許等 ①特明136150:1938/2/4出願、1940/4/23登録「魚價計算尺」。東京市産業局の野宗英一郎氏、月岡章郎氏、ヘンミの平野英明氏共同。
②特明140190:1939/8/18出願、1940/12/3登録「身體檢査用計算尺」。平野英明氏。(*6)
その他

*1 野宗英一郎氏は広島出身。広島一中、岡山六高校、東大経済学科卒。銀行員を経て東京市奉職。戦後に東京都中央区長を4期務めた
*2 計算尺愛好会に、同様の機能を持つ金属の円盤型計算尺「KYS比体重・比胸囲・比座高 高速計算器」(海軍省指定工場 山越製作所)が紹介されている。
*3 尺面は旧字体が使用されている。:①賣=売、②圍=囲、㘴=坐
*4 坐高(=座高)は、「短足」の冷やかしの恐れや、生活機能との因果関係が解明されない事などの事情で現在(2016年4月以降)では測定しないらしい。
*5 匁=もんめ(1匁=3.75g)
*6 「比率計算尺」の方は宮崎治助氏の「計算尺発達史」(1956年)でも平野氏が設計に参画した主な専門計算尺13種の一つとして挙げられている。「魚価計算尺」はニッチ過ぎたのか日の目を見る事はなかったが、こうして紹介できる機会を得た事を嬉しく思う。

①1937年12月 東京市産業時報より魚価計算尺イメージ

①同、説明図

①②1938年4月 東京産業時報の広告

②常態

②表面

②裏面

②1939年1月 日本中等教育数学会雑誌の広告

②説明書

2023/02/26

HEMMI No.2664

No.2664は造りや尺面にバリエーションが多く存在する。これらの他にも、Paul Rossさんやじぇいかんさんのブログでは定規部分が無い竹面エッジのモデル等が紹介されている。①②は簡易的なケースであったり、②のセルロイドの品質から物資不足が影響したと考えられる。

器種
概要
タイトル HEMMI No.2664 バリエーション
ブランド HEMMI
型番 No.2664
ロゴ ①エッジ左②ストック裏下に〇"SUN"〇 HEMMI
③④〇SUN〇 HEMMI
①②引用符""は垂直
〇は太陽に光線 (クサビ形①②長短6本、③④8本)、雲 (2本線)、
左右同一④は間隔広め
サイズ 10 "
スタイル Closed
システム 一般技術用
製造時期 ①②1940-45?
③1947-50 (*1)
④1953/1 (DA)
製造国 日本 (③MIOJ) (*1)
構造 【ヘンミ片面G5など】
溝:①透明セルロイド②③④白色セルロイド②中央縦に切れ込みあり
裏窓:①長丸穴、②③④⊃⊂切欠+透明セルロイド
接合版:アルミ、①③穿孔あり
寸法
[mm]
長さ ①②③285
④195 (*2)
40.5
厚さ 11.2
重量
[g]
総重量 ①③93
②94
④107
カーソル 6
材質 本体 竹、セルロイド
接合版:アルミ
リベット:アルミ
③真鍮ネジ4本
④鉄ネジ4本
カーソル 【一体型ステンレス】
フレーム:ステンレス
板バネ:鉄
ウィンドウ:ガラス

目盛り
表面 K, DF
[CF, CI, C]②③④は赤CI
①②D, A+L (*3) ③④D, A
裏面 -
①②[TI2, TI1, SI2, SI1]
③④[TI2, TI1, L, SI1]
-
計・備考 ①②12尺
③④11尺
その他
目盛り
ゲージ
マーク
π=3.1416【C,D,CI尺】
C=√(4/π): C,D尺の直径からA,B尺に面積を計算。【C,CI尺】
ρ”=206265秒=1ラジアン【C尺】
ρ’=3438分=1ラジアン【C尺】
②③④√10【CF尺両端】
定規 ①上cm、下inch
②③④上inch、下cm
付属品 ケース ①黒のクロス紙張り厚紙、蓋なし、289mm
②茶のクロス紙張り厚紙、蓋なし、290mm
③黒のクロス紙張り厚紙、鞘方式、295mm、蓋113mm
④黒のクロス紙張り厚紙、鞘方式、300mm、蓋113mm
マニュアル 欠品
その他 ①裏テーブル欠品
②ケース値札に手書きで「№ HEMMI 2664 \80.80 tax \11.28?」
③裏テーブル欠品。ケース値札に「マル届?50円?物品税並サック代」(*4)
備考 特許等
その他

*1 MIOJ="MADE IN OCCUPIED JAPAN"は1947-52年に日本からの輸出品にGHQが義務付けたもの。③には1950年以降のDate Stampが無いため1947-50年頃と推測。
*2 この頃、10インチ片面"//Closed||"の長さが295mmに統一される。
*3 A尺とL尺を1単位ずつ半分割り当てた目盛り。A尺の11-100が無いのはともかく、L尺の0.1-0.5はDF尺に対応するので、なるほど半分で済む。
*4 マル届=届出価格。戦時の物価統制のマル公価格から自由価格に戻る際に暴利行為、不当高価取締のために設けられた。

常態

正面、溝

裏面

ケース表

ケース裏

2023/02/19

BARBOTHEU Mannheim 25cm, 12cm

非常に情報が少ないがフランスのバルボテウ社 (*2) のマンハイム。別のモデルでは原料の木は堅く密度の高い Zapatero という情報もあるが、少し白っぽいので Boxwood の可能性がある。ストックは溝部分の台、ベベル、エッジ計3枚の板が接着されているだけで、接合部品はなく調節は不可能だがスライドとの密着度合はなかなか良い。②厚みがありポケットサイズの割に少し重く、カーソルフレームも他では見られないマットな感触で持ち物としての満足感は得られると思う。幅と厚さは①②ともほぼ同じで、カーソルのサイズも同じである。

器種
概要
タイトル フランスのポケットサイズマンハイム
ブランド BARBOTHEU
型番 ①240?
②不明
ロゴ BARBOTHEU PARIS
サイズ ①25 cm (10 ")
②12 cm (5 ")
スタイル //Closed||
システム Mannheim
製造時期 最遅で1913年頃
製造国 フランス
構造 正面、ベベル、エッジ、滑尺、溝:セルロイド
裏窓:長丸穴タイプ (*3)
寸法
[mm]
長さ ①280
②150
29.6
厚さ ①11.2
②11
重量
[g]
総重量 ①75.6
②42
カーソル 7
材質 本体 Zapatero or Boxwood、セルロイド
カーソル アルミ矩形
フレーム:アルミ (②防さび処理か艶消しの黒)
板バネ:鉄
ウィンドウ:ガラス

目盛り
表面 A
[B, C]
D
裏面 -
[S, L, T]
-
計・備考 7尺
目盛線タイプ:Railway track
その他
目盛り
ゲージ
マーク
①【A,B尺】②【A,B,C,D尺】
π=3.1416
①【A,B尺】
’=3438分=1ラジアン
”=206265秒=1ラジアン
①【C,D尺】
C=√(4/π): C,D尺の直径からA,B尺に面積を計算。
C1=√(40/π): Cと同様だがA,B尺の2単位目 (10~100) に対応。
定規 上 cm
下 cm
溝延長 cm
付属品 ケース 欠品
マニュアル
その他 裏面テーブルは貼り付けられた上からニスが塗布してある。
備考 特許等
その他 ②使用者独自のゲージマークが刻まれている:
  • 1.61辺りにM|K(mile|km)
  • 3.28辺りにM/FEET(m/feet)
  • 39.4辺りにM|IN(m/inch)
  • 0.454辺りにG.LB|L.KL(ポンド/キロ)
  • A尺62辺りにM|K(km/mile)

*1 フランスなのでインチではなくセンチを使用。1913-14のカタログによると、20cm, 25cm, 35cm, 50cmのモデルがある。(12cmは記載されていない)
*2 Georges Barbotheu (1857-1925) ジョルジュ・バルボテウ (発音はバルボテュー、バルボシューに近い?) は、1885年に精密機器、製図品、測量機器を製造する会社を設立。計算尺は 1888年~1913年の間、製造していたと思われる。
*3 HEMMI 片面”//Closed||” 型のG1~G2の裏窓と同様の位置と形。HEMMI の尺は基本的にA.W.FABERの模倣が多いが、裏窓だけはバルボテウ社のようなものを採用したようだ。

常態



溝、滑尺裏

②右エンド
ストックとスライドの相性が良い組に同じ番号を振った

2023/02/05

Pickett N600-ES

アポロ11号の年に生まれた自分としてはどうしても欲しかった一品。少々お高めだったが海外サイトで購入。ブレースの形状違いで3世代(Square, Curved, Hooked)ありこれはその内2番目。多分2番目以降がアポロに搭載されたモデル。

アポロ計画において、電気系統が使えなくなってもアナログの計算尺は役に立つので携帯用として搭載することになったのだろう。Pickett 製なのは国家プロジェクトなので米国産である事はもちろん、オールアルミ尺で強い太陽光線や熱、真空にも耐える必要から当然だろう。燃えやすいセルロイドなどは以ての外!

ずらし尺がπ切断(xF尺がx尺のπ倍になっている)というところも天文学の世界では頻繁に使用する定数なので妥当である。πゲージは正確に目盛りを合わせようとすると結構時間が掛かるが、両端がπという構造は合わせやすい。宇宙飛行士が計算尺を必要とするシチュエーションはおそらく一分一秒を争う状況なので重要な要素である。(*1)

LLn尺はそれぞれ数直線上下に (フィッシュボーン状に) ±を配置しており、視線を動かす必要がなくそこが逆数でもある。尺面のスペースが少なくて済み、このポケットサイズの尺では非常に合理的。

器種
概要
タイトル 月へ行った計算尺
ブランド Pickett & Eckel
型番 N600-ES
ロゴ 〇▽・に筆記体でPickett
サイズ 5 "
スタイル Duplex
システム Log-Log Duplex
製造時期 1962年頃
製造国 アメリカ
構造 ブレースの形状=Curved
寸法
[mm]
長さ 153
28
厚さ 2.8
重量
[g]
総重量 35
カーソル
材質 本体 ストック、スライド、ブレース、ネジ
すべてアルミ
カーソル ウィンドウ、ランナーともプラスチック (ネジ、板バネは鉄)

目盛り
表面 LL1±, A
[B, ST, T, S, C]
D, DI, K
裏面 LL2±, DF
[CF, Ln, L, CI, C]
D, LL3±
計・備考 22尺、xF尺はπ切断。
その他
目盛り
ゲージ
マーク
π=3.1416【A,B,C,D,CI,DI,CF,DF尺】
e=2.71828【LL2,LL3尺】
|=78.5398辺り=π/4【A,B,C,D尺】
R=57.2958度=1ラジアン【C,D尺】 (ρ°と同じ役割)
' =1度58分12秒【ST尺】 (ρ'と同じ役割)
" =1度10分55秒【ST尺】 (ρ"'と同じ役割)
定規 なし
付属品 ケース ヌメ革。私が知る計算尺ケースの中で最も原価が高そうな良い牛革を使用している。鉄のクリップも革で覆われ、プルタブ(これも革)で尺を取り出せる工夫もあり秀逸。35g。
マニュアル 欠品
その他
備考 特許等
その他 カーソル寸法:38.8x19x7。
Pickettといえば黄色。目の疲労を抑えるのだとか。そういえばIBMの古いコンピューターのディスプレイも文字は黄色だった。アメリカで流行ってたのか。

*1 宮崎治助氏は「計算尺発達史」の中で一般用尺でのπ切断の採用を否定しているが 宇宙飛行士が使うならきっと許してくれただろう。

表面

裏面

2023/01/24

旧日本陸軍御用達の九七式歸心計算尺

米国から購入した初めての20インチ尺。

陸軍の要請で作られた特殊な計算尺で、測量困難な三角点Aから偏心した仮の観測点Bを置いた場合にAでの角度に補正する計算を「帰心」計算 (Eccentric Reduction) というらしい。「帰心」は古い言い回しなのか検索結果は少なく、偏心補正 (Eccentricity Correction) と同義と思われる。当然、受注生産だろうから数はかなり少ない筈だ。日頃モデルのチェックで勝手にお世話になっている Paul Ross さんの Hemmi Slide Rule Catalogue Raisonné の second page (型番不明のリスト) には "Triangulation Rule, ca 1940" として紹介されている珍品。ケースに筆字、縦書きの楷書「九七式歸心計算尺」はなかなかの達筆である。九七式とは皇紀2597年の97の意 (西暦に660足すと皇紀になる)。軍用のアイテムにはやたらとこのような〇〇式と名の付くものが多い。では陸軍で実際に使用された形跡のあるこのアイテムが戦前、戦中、戦後いつどのようにしてアメリカ人の手に渡ったのだろうか。戦地で接収したものか、戦後に日本人が贈与したものか、もっと後にコレクタアイテムとして買われたのか、実に興味深い。

このモデルは1936年に考案試作したものである事が、陸軍の機関誌で大前憲三郎氏 (当時は工兵中佐、最終階級は陸軍中将) により紹介されている。カーソルは本来は2個らしいが1個は欠品していた。

器種
概要
タイトル 旧日本陸軍御用達の特殊計算尺
ブランド HEMMI
型番 なし (九七式歸心計算尺/九七式帰心計算尺)
ロゴ 〇”SUN”〇 HEMMI
〇は太陽に光線 (クサビ形長短6本)、雲 (2本線)、左右同一
サイズ 20 "
スタイル //Closed||
システム Surveying
製造時期 1937
製造国 日本 (軍用だからか、MADE IN JAPANは入っていない)
構造 【ヘンミ片面G4】(ただし裏窓が特殊な位置)
セルロイド面のリベットなし
溝:セルロイド
裏窓:長丸穴タイプ (ただし左から1/3の場所に一か所のみ)
接合版:薄アルミ
寸法
[mm]
長さ 567
48
厚さ 14
重量
[g]
総重量 256
カーソル 2x10
材質 本体 竹、セルロイド
接合版:アルミ
ネジ:真鍮
リベット:アルミ
カーソル 【フレーム+ランナー】
フレーム:ステンレス
ランナー:プラスチック
鉄板バネ:鉄
ネジ:真鍮
ウィンドウ:ガラス

目盛り
表面 e
[α, S, LogS]
X
1'~20'
裏面 -
[L, 3√N, √N, T, N]
-
計・備考 11尺 (*1)
その他
目盛り
ゲージ
マーク
なし
定規 上 cm
下 inch
付属品 ケース 牛革ベルト式(バックル破損)、580mm
マニュアル おそらく存在しない (あっても陸軍内資料)
その他
備考 特許等 なし
その他 牛革ケースベロの裏に個人名か部隊名だろうか「京」の印がある。
折角牛革なのに革同士は縫い合わされておらず、厚紙の台紙に革を縫い、それを箱型に接着したもののようであるため、おそらく立てた状態で差し入れた際の衝撃に耐えられず底が抜けていた。簡単な修繕済み。
また、欠品しているが、裏面テーブルカードがあるらしい。

*1 帰心化計算でe尺にm、S尺にkm、α尺に° (移高化計算ではαは90°) をセットするとX尺に補正値を秒で得るという仕組み。要はルーティーン的な単位換算したりラジアン秒値を使ったりの作業を省力するもののようである。e尺、X尺、N尺は実質3単位目盛りと同じ (通常はK尺) である。1'~20'尺は秒分換算用。しかしα尺の上側の余白、もったいない気がする。

常態

表面、溝

裏面

表面左

表面右

スライド裏面左

スライド裏面右

ケースベロ裏に「京」


2023/01/20

隠された独ネスラー社のマンハイム

英国の方から購入した Nestler Mannheim (Pickworth Data Slip) 。マホガニー材がベースで木部の色は美しいが、経年のため凸状に反りがある。この点、A.W.FABER であれば真鍮の芯材が埋め込まれている (D.R.PATENT. № 206428) ので反る事がない。また逸見治郎氏による竹の合板 (PAT.22129) では反り対応と同時に軽量化も実現できた。竹の表面は堅く狂いも少ない。それら発明は本当に素晴らしいと思う。ただ NESTLER は尺の目盛りに関しては数々の製品を創出し、中でもリーツ式を考案するなどその後の計算尺の進化に貢献した。

話はこちらの尺に戻すが、実はこの正体が判明したのは商品到着後である。出品者も「尺面には銘がない」と説明していた。

手がかりは、ヨーロッパの初期のセルロイド張り計算尺はネジで固定するものが見られる事、裏面テーブルの内容が Charles Newton Pickworth という計算尺に関する書物を出した人物 (1861-1955, British mechanical engineer) によるものという事だったので、 Google 検索している間に見つけたのがやはり、日頃勝手にお世話になっている ISRM の NESTLER の資料だった。(https://www.sliderulemuseum.com/Nestler.htm)

尺面と裏面テーブルが一致。さらにストック溝中央に僅かに刻印の跡ようなものがあるがかなり薄いため判読できなかったが、ISRM に「1908-1911 - "ALBERT NESTLER LAHR i/B" used as logo in well of Nestler and D&P stocks」の記述を発見した。そう、目を凝らすと刻印の跡 "AL … LAHR i/B" が薄っすらと残っているのだ。"D&P" (Dennert & Pape) とは後の ARISTO で、NESTLER では当初、尺本体は "D&P" から供給を受けて自社の機械で目盛りを刻んでいたらしい。1905年以降、自社で尺本体を製造するようになった後でも残った在庫の "D&P" 尺に上記ロゴを入れて生産していたようである。つまり、この計算尺の製造時期は最も後でも 1911年という事になる。

では何故、銘が削られているかというところに興味は移る。単にMILLER 社の OEM として無印化したのか、或いは第一次世界大戦で英独が戦争状態となり貿易は表向きは制限されていたが、ヤミで取引されていたのではないか。ただ堂々と NESTLER の刻印があるのは憚られ、削ったのではないか。ケースにもそれを隠蔽するラベルを貼ったのではないか。謎めいた一本である。

計算尺関係の文献を漁っていると「工業界」1912年 第3号から第9号にかけて連載された一記者の記事「計算尺の使用法」で偶然にこの NESTLER 尺の図を見つけた。その開始号の締めくくりが面白いので引用しよう。

"計算尺は和製、舶来共にあれども和製は目盛の不正確と「スライド」と「ストック」との適合不十分なるを以て舶来の方を撰ぶべきなり、但し代価はもちろん和製の方が安価なり"

この"和製"とは、中村浅吉商店の1913年のカタログにあるような、かつて逸見治郎氏も関わったであろう木製計算尺の事と思われるが、奇しくも「工業界」の記事と同じ年の春に、氏は「遂に立派な計算尺ができた」と振り返っている (1941年の雑誌「向上」より)。逸見式竹製計算尺の完成である。氏は古巣の中村浅吉商店よりも先に玉屋商店と取引を始めたようで、玉屋商店の1912年10月カタログにNo.1937として掲載している。

器種
概要
タイトル 消された刻印?ネスラーのマンハイム尺
ブランド NESTLER
型番 Nestler Mannheim
ロゴ 溝にあった "ALBERT NESTLER LAHR i/B" が消された痕跡
サイズ 10 "
スタイル //Closed||
システム Mannheim
製造時期 ISRM の写真資料では1917頃とされるが刻印が示すのは1911頃か
製造国 ドイツ
構造 リベット:正面、エッジ、滑尺の両端すべて
溝:セルロイド
裏窓:⊃⊂切欠タイプ
接合版:鉄?のバー2本
寸法
[mm]
長さ 275
31.6
厚さ 10.8
重量
[g]
総重量 79
カーソル 4
材質 本体 マホガニー、セルロイド
接合部品:鉄
ネジ:真鍮
カーソル 【初期型アルミ矩形】
ヘアライン3本線なのでオリジナルではない可能性。
フレーム:アルミ
板バネ:鉄
ウィンドウ:ガラス

目盛り
表面 A
[B, C]
D
裏面 -
[S, L, T]
-
計・備考 7尺
目盛線タイプ:Railway track
その他
目盛り
ゲージ
マーク
【A,B尺】
π=3.1416
M=1/π: A,B尺での連続計算でπを含む計算に使用。
78.54辺り=π/4 (*1)
【C尺】
ρ’=3438分=1ラジアン
【C,D尺】
ρ”=206265秒=1ラジアン
π=3.1416
C=√(4/π): C,D尺の直径からA,B尺に面積を計算。
C1=√(40/π): Cと同様だがA,B尺の2単位目 (10~100) に対応。
ρ,,=63.66=200/π: grad.(100゚法)とラジアンの変換。
定規 上 cm
下 inch
溝延長 inch
付属品 ケース 黒のクロス紙張り厚紙筒、長丸型、285mm。
マニュアル 欠品
その他
備考 特許等
その他 ケースラベル「MILLERS DRAWING MATERIAL WAREHOUSE」(*2)

*1 NESTLER や PICKET、古い HEMMI の尺に多いゲージマーク。Cと同じ役割。
*2 英国製図用具ブランド。現在も画材等を販売している模様。製図用具と共に計算尺を扱う会社は多かったようである。内田洋行とHEMMIの関係に近かったのかもしれない。このケースにはラベルが重ねて貼られている。社名の下に取扱商品が羅列されているので、おそらく品揃え変わったために更新したのだろうと思われる。さらにその下、地のケースにはオリジナルメーカー「NESTLER」の記載があるのではないかと推測している。

常態

表面、溝

裏面

流石に100年を経ると反るNESTLER尺

溝に残るロゴ

溝に残るロゴ

計算尺の使用法に使われたNESTLERの挿絵
「工業界」1912年 第3号より

中村浅吉商店カタログの和製計算尺 (1913年)






2023/01/04

中等学生用HEMMI No.2640 の変遷

中等学生用とされるNo.2640 を戦前、戦中、戦後で比較してみる。型番は「皇紀2600年のNo.40」の意味と思われる。No.40と同様に①~③のA,B尺にπゲージがあるのは乗除算の際にマンハイムでは通常A,B尺を使っていた名残である。①~③の順は憶測であるが根拠を列挙しておく。
  • ①のみ裏面テーブルカードの内容が異なる。②③および④は図解があるため、学校教育用に導入した当初とその後の改訂と想像できる。
  • ①のみ裏窓の透明セルロイドが右側のみになっている。これは当時のNo.40を踏襲したものと考えられる。後に左右両サイドに仕様変更される。寧ろ両方作った方がアルミの使用量が節約できる。
  • リベットの数も①は上下計12本、②③では10本に減らされている (*1)。ちなみに④ではふんだんに18本。
  • セルロイドの品質が①②③の順で悪くなる。③は特に黒ずんで見える。①の当初はまだ物資に余裕があったのだろう。(*1)
  • ①の値札より、型番別にマル停価格が設定されていたのなら、1939年9月18日以前にも販売されていたことが覗える。(*2)
①の興味深いところは、もし1939年9月18日以前にも販売されているのなら、厳密には皇紀2599年以前である。つまり中等学校生徒用として生産する計算尺に、皇紀2600年を記念して型番として "No.2640" を先取りしたという事だ。1929年、平野英明氏によるロビー活動「中等學校ニ於テ計算尺使用法ヲ強制的ニ教ヘルコトニ就テ」もある事から、宮崎治助氏の「計算尺発達史」年表の「1943年 日本の中学校教科書に初めて計算尺採用さる」よりもう少し早く教育現場に導入されていたのかもしれない。この値札はそういう時代考証の史料としても貴重である。

器種
概要
タイトル 謎多きHEMMI No.2640
ブランド HEMMI
型番 No.2640
ロゴ ①②②'③③'〇"SUN"〇 HEMMI、④〇SUN〇 HEMMI
①②②'③③'引用符""は垂直
〇は太陽に光線 (クサビ形①長短6本、②②'4本、③③'6本、④8本)、
雲 (2本線)、左右同一
サイズ 8 "
スタイル Closed
システム Enhansed mannheim (for student)
製造時期 ①1939~②②'③1940? ~1945、③'1945?、④1955/1
製造国 日本 (④のみ型番横にJAPAN)
構造 【ヘンミ片面G5x-薄型のG5が出た頃の Closed】
溝:薄アルミ板のみ
裏窓:⊃⊂切欠+透明セルロイド (①右のみ、②②'③③'④左右)
寸法
[mm]
長さ 220
①②②'28
③③'29
④28.5
厚さ 8.5
重量
[g]
総重量 ①②②'③③'42
④49
カーソル 4-5
材質 本体 竹、セルロイド
接合版:真鍮
リベット:アルミ
カーソル 【一体型ステンレス】
フレーム:ステンレス
板バネ:鉄
ウィンドウ:ガラス

目盛り
表面 ℓ, A
[B, ①②逆C、②'③③'逆C、④CI, C]
D
裏面 -
[S, K, T]
-
計・備考 9尺
その他
目盛り
ゲージ
マーク
【A,B尺】
①②②'③③'のみπ=3.1416
【C,D尺】
π=3.1416
C=√(4/π): C,D尺の直径からA,B尺に面積を計算。
定規 エッジ部なし。
ℓ尺がcm定規も兼ねる
付属品 ケース ①②③黒の簡易的なボール紙、蓋なし、222mm、200mm、199mm
②'欠品
③'④クロス紙張り厚紙、鞘方式、230mm、蓋87mm
マニュアル ①②②'③③'欠品
④あり
その他
備考 特許等
その他 ①は値札よりマル停 (停止価格) 3円50銭で物品税10%がかかる。
②の値札ではマル公 (公定価格) マークが判別可能。 (*2)

*1 戦時の物資節約の問題は当然あったかもしれないが、このNo.2640はそもそも中等学生向けの学生期間 (5年間、一時4年間) だけの限られた使用想定のため、敢えて安価な材料が選ばれたとも考えられる。
*2 昭和14年 (1939) 10月18日、国家総動員法に基づく「価格等統制令」が発布され、同年9月18日における金額に価格が停止され「価格停止品」と呼ばれた。それを表すマークが「マル停」。他に価格統制は「マル公 (公定価格)」「マル協 (協定価格)」「マル新 (新規発売品につけられた)」「マル芸 (芸術品につけられた)」などがある。

常態

表面、溝

裏面

ケース

停止価格

②と同時期で赤の「逆C」を入手したので「②'」として追記し写真も追加。使い込まれたらしく竹の面が飴色になっている。


2023-06-05追記:③と同時期で赤の「逆C」を入手したので「③'」として追記し写真も追加。裏面テーブルカードが英語になっている。戦争が終わった直後か。鞘方式ケースもロゴ無しながら採用されている。

テーブルカードが英語