2024/04/24

極小の計算尺

1.4インチ (*1) のタイクリップ。計算尺として実際に使えるが目を凝らさないと読めない。老眼では無理。
部品を失くしたらショックだろうから、これを身に着けるときは激しい動きは禁物だ。というか着けないか。。。

器種
概要
タイトル 計算尺マニアのアクセサリー
ブランド SWANK
型番 1524-8459/30
ロゴ クリップの裏に"S"
サイズ 1.4 "
スタイル Closed
システム 初期のイギリス計算尺に近いがB尺はない。
製造時期 1950s
製造国 USA
構造 尺の断面は裏(クリップ側)が狭く表が広い台形となっていてカーソルが外れにくくなっている。また、スライド両端には石が埋め込まれ少し出っ張っておりカーソルに当たりスライドの脱落も防止している。
ただ外そうと思えばどちらも外せる。
寸法
[mm]
長さ 46
7.5
厚さ 3
重量
[g]
総重量 10
カーソル 極僅か
材質 本体 金メッキのタイクリップにプラの計算尺が接着。
カーソル プラ

目盛り
表面 A
[C]
D
裏面 [blank]
計・備考 3尺
その他
目盛り
ゲージ
マーク
なし
定規 なし
付属品 ケース 化粧箱
マニュアル あり。但しイラストは異なる。
その他
備考 特許等
その他

*1 サイズは一般的な計算尺と同様に、C,D尺の1~10の目盛部分の長さとしている。



2024/04/23

HEMMI No.6, No.7, No.8, TAMAYA 1942

ポケットサイズのマンハイム。①は海外サイト、②③⑤はヤフオク、④は海外サイト(イタリア)で購入。特に③は競り落とすのに「えっまだ上げるの?」とずっとヒヤヒヤした。③は特許表示のオンパレードだ。ストック (日22129、英、仏)、カーソル (日51788、58115)、ケース (日22129、29714、英、仏、米、加、清) 。ここまでアピールしているモデルは無いかもしれない。④は10インチ尺と同様にπのフォントがHEMMI版と異なる。

器種
概要
タイトル HEMMI初のポケットサイズ
ブランド HEMMI
型番 ①②No.6
③No.7
④TAMAYA 1941
⑤No.8
ロゴ ①②③J.HEMMI. 〇"SUN"〇
引用符""はやや内向き
〇は太陽に光線 (クサビ形①同一長8本、②③長短8本)、雲 (2本線)、左右対称
④TAMAYA & Co.
⑤〇"SUN"〇 HEMMI
引用符""は垂直、〇は太陽に光線 (クサビ形長短6本)、雲 (2本線)、左右同一
サイズ 5 "
スタイル //Closed||
システム Mannheim
製造時期 ①1917/7 (英特許取得) 以前
②1917/12 (仏特許取得後) 以降
③1925頃(状態の良いケースに創業30年とある)
④1917-2x
⑤1925-29
製造国 日本 (②③⑤MADE IN JAPANが固定尺右下にある)
構造 ①④【ヘンミ片面G1-極初期型】
②【ヘンミ片面G1-初期型?】
③【ヘンミ片面G2-第2-世代】
⑤【ヘンミ片面G4】
①②リベット:正面、エッジ、滑尺の両端すべて
③⑤裏面セルロイド
溝:セルロイド
裏窓:①②③④長丸穴タイプ、⑤⊃⊂切欠タイプ
接合版:①②③④真鍮錫メッキ、⑤アルミ
寸法
[mm]
長さ ①②③④150
⑤149
①28.4
②③28.6
④⑤28.0
厚さ ①8.5
②9
④⑤8.6
重量
[g]
総重量 ①30+?
②③35
④33.4+?
⑤34.9
カーソル ①④欠品
②3
③4
⑤7.7
材質 本体 竹、セルロイド
接合版:①②③④真鍮、⑤アルミ
ネジ:鉄(①のネジ頭が若干大きい)
リベット:①②③④アルミ、⑤なし
カーソル ①④欠品
②【初期型アルミ矩形】
③【アルミA型DPI】
⑤【ステンレス、拡大鏡付き】
フレーム:③④アルミ、⑤ステンレス
板バネ:鉄
DPI針:鉄
ウィンドウ:ガラス

目盛り
表面 A
[B, C]
D
裏面 -
[S, L, T]
-
計・備考 7尺
目盛線タイプ:Railway track
③ABCDの尺名あり
その他
目盛り
ゲージ
マーク
【A,B,C,D尺】
π=3.1416
⑤M=1/π: A,B尺での連続計算でπを含む計算に使用。
【A,B尺】
⑤C=√(4/π): C,D尺の直径からA,B尺に面積を計算。
⑤C1=√(40/π): Cと同様だがA,B尺の2単位目 (10~100) に対応。
定規 ①②③④上 inch、下 cm、溝延長 cm
⑤上 cm、下 inch
付属品 ケース ①④⑤欠品
②濃緑色の布紙張り厚紙筒、かまぼこ型、ホック方式、155mm。
③濃緑色の布紙張り厚紙筒、かまぼこ型、ホック方式、158mm。
マニュアル 欠品 (存在自体不明)
その他
備考 特許等 ①②③ストック下中央のロゴマーク横に「PATENT. №22129.」
②③さらに右に「BRITISH PATENT 107562.」「BREVETE S.G.D.G.」
③ネジ固定式カーソルのPAT.51788 (1920~1922年頃)、裏にA型カーソルのPAT.58115がある。ケースラベルにストック上下の接合法に関するPAT.29714が記載され非常にレア。本体にはこのPAT刻印はされたことがないと思われる。(*1)
①②③溝にも「専賣特許第二二一二九 逸見式改良計算尺」(右横書き)
④溝中央に「PATENT. №22129.」、スライド左端に「特許」(右横書き)
その他 ⑤のみ、トラディショナルな「←±|∓→」「Quot.+1」「Prod.-1」マーク 。

*1 この時期のHEMMIの特許は下表の通り:

特許・実用新案番号出願登録
竹製計算尺特許日 221291909-09-141912-05-11
英 GB1075621917-02-121917-07-05
仏 FR485215
(Breveté SGDG)
1917-02-121917-12-20
米 US13299021917-03-301920-02-03
加 CA2087101917 ?1921-02-22
1917 ?1921 ?
竹製計算尺の接合の特許日 297141916-03-051916-07-06
ネジ固定式カーソル実用新案日 517881919-06-041920-04-05
裏面表記札の実用新案日 520181919-06-041920-04-17
A型(逆C型)カーソル実用新案日 581151921-02-261921-07-16
算盤附計算尺実用新案日 597321921-09-201921-09-29

常態
表面
裏面
②③ケース表
②③ケース裏

④TAMAYA 1942 表面

④TAMAYA 1942 溝、滑尺裏面

④TAMAYA 1942 裏面

⑤常態

⑤溝、表面

⑤裏面

2024/04/21

King of Slide Rule

計算尺の集大成。30尺、6+4本線カーソル。
①1stタイプ:
  • ブレースのリベット両面とも丸み。
  • カーソルネジが上部側面に1本。
  • 馬力用ヘアラインが1.360の場所でラベル "PS" (*1)。
  • 円面積用ヘアラインのラベル "q"。何の略なのか不明。
②2ndタイプ:
  • ブレースのリベット裏がハトメ。
  • カーソルが両面8本。
  • 馬力用ヘアラインが1.341の場所でラベル "HP" (*1)。
  • 円面積用ヘアラインのラベル "s"。"Surface area"の略か。
プラのFABER CASTELLでは文字や目盛りの色だけでなく、所々にbackgroundに水色や薄緑色が施してあり視認性が良い。
W1,W1'尺とW2,W2'尺はC,D尺を2倍に伸ばしたもので20インチ尺の精度で読めるようになっている。
スペイン語、ポルトガル語圏向け製品は名前の一部が変わり、"~DUPLEX" が "~BIPLEX" になるらしい。

器種
概要
タイトル 最強の計算尺
ブランド FABER CASTELL
型番 2/83N (スライド端)
ロゴ ステーター上にエンブレム
ステーター下に
①CASTELL NOVO - DUPLEX (ハイフンあり)
②CASTELL NOVO DUPLEX (ハイフンなし)
サイズ 10 "
スタイル Duplex
システム Log-Log Duplex
製造時期 1968-76
製造国 独 (スライド端に MADE IN GERMANY)
構造
寸法
[mm]
長さ ステーター:368
スライド:378
57
厚さ 5
重量
[g]
総重量 ①162.5
②160.5
カーソル
材質 本体 プラ
カーソル プラ

目盛り
表面 T1, T2, K, A, DF
[CF,B,CIF,CI,C]
D, DI, S, ST, P
裏面 LL03, LL02, LL01, LL00, W2
[W2', CI, L, C, W1']
W1, D&LL0, LL1, LL2, LL3
計・備考 30尺、xF尺はπ切断。
その他
目盛り
ゲージ
マーク
【A,B,C,CIF,CI,D,DI,CF,DF,W1,W2尺】
π=3.1416
【A,B尺】
M=1/π: A,B尺での連続計算でπを含む計算に使用。
【表C,表D,W1,W1'尺】
C=√(4/π): C,D尺の直径からA,B尺に面積を計算。
ρ=π/180=0.01745: 1度のラジアン値。
【表C,表D,W2',W2'尺】
C1=√(40/π): Cと同様だがA,B尺の2単位目 (10~100) に対応。
【LL2,LL3尺】
e=2.71828
【LL02,LL03尺】
1/e=0.3678
【W1,W1',W2',W2'尺】
▽△=√10=3.16
定規 カードにcm、inch
付属品 ケース プラ (*2)
マニュアル ①独語、②英語
その他 プラ製カード:①独語、②英語
備考 特許等
その他 カーソルヘアラインの使い方
【表】
  • kW/①PS②HP:C,D尺上で①1:1.36、②1:1.34を変換
  • 中心/360:C,D尺の3.6倍がCF,DF尺にある事を使用して、秒速-時速変換や日利-年利を簡易計算。
  • d/①q②s:C,D尺に直径 d を合わせた時、A,B尺の①q②sに円の面積
【裏】
  • d/①q②s:W1~W2,W1'~W2'尺に 直径 d を合わせた時、D,C尺の①q②sに円の面積、さらにCI尺の①q②sに高さを合わせるとD尺に円柱の体積。

*1 PS: Pferde Starke [独] 仏馬力(メートル法)
HP: Horse Power 英馬力(ヤード・ポンド法)
*2 FABAR CASTELL 全般で言えることだが、プラケースが非常に臭い (酢酸の残り香のような不快な匂い)。ドイツは技術大国だが、匂いには鈍感だったのか。日本では考えられない。


①表面

①裏面

①収納状態

①カーソルネジ

②表面

②裏面

②収納状態

2023/08/14

HEMMI ポケットサイズのマンハイム

4インチのポケットサイズのマンハイム尺No.30、No.32は同一型番としては歴史が長く、1930年からあるロングセラーモデル。最も古いタイプには両端のリベット止めや、トラディショナルな位取り備忘マーク「←±|∓→」「Quot +1」「Prod -1」が残っている。No.32のカーソルはガラス製のレンズが装着されており本体に比して重みがあるため、ポケットにしまう際はレンズを下にした方が落ちにくいだろう。小型なので目盛りを精密に読むのは厳しく、作業の現場で概算を得るために使うものと想像する。新しいタイプではアクリル製の一体化レンズカーソルで軽量化されている。私の父も持っていた。(実は私のコレクションの第一号がこの親父の形見だ)。No.32やNo.2634はノベルティとしてもよく利用されている。ここで紹介している最も古いNo.32のケースはエジソン蓄電池カンパニーとなっているが、90年以上前からノベルティとしての用途があった事実と、経年の割に状態が非常に良い事に驚いた。

器種
概要
タイトルHEMMI ポケットサイズのマンハイム
ブランドHEMMI
型番①③④⑤⑦No.32
②⑥No.30
ロゴ①ストック裏下にHEMMI 〇"SUN"〇、アルミプレート裏にパンチ●"SUN"●
②ストック裏下に〇"SUN"〇 HEMMI、アルミプレート裏にエンボス●"SUN"●(但し裏返しは水平方向にフリップ)
③ストック裏下に〇"SUN"〇 HEMMI
④ストック裏下に〇SUN〇 HEMMI
⑤⑥ストック裏上に〇SUN〇 HEMMI
⑦ストック表右上に〇SUN〇 HEMMI
①引用符""は内向き
②③引用符""は垂直
〇は太陽に光線 (クサビ形長短①③6本、②④8本、⑤⑥⑦フラット長短8本)、
●は太陽に光線 (クサビ形長短8本)、
雲 (2本線)、左右同一
サイズ4 "
スタイル//Closed||
システムMannheim
製造時期①1930年~1932年7月30日以前 (*1)
②1930年代中期(構造は古いがPAT表記が無い)
③1930-43?
④1947-52 (*1)
⑤1963/8 (NH)
⑥1964/9 (OI)
⑦1968/9 (SI)
製造国①②③⑤⑥⑦日本 ④MIOJ (*2)
構造①②【ヘンミ片面G5薄型リベットあり】
③④⑤⑥⑦【ヘンミ片面G5薄型】
溝:接合版露出
裏窓:⊃⊂切欠+右のみ透明セルロイド
接合版:アルミ
寸法
[mm]
長さ①②③122
④⑤⑥⑦120
①20
②20.8
③20.2
④⑤⑥⑦21.5
厚さ③5.5
④⑤⑥⑦6
重量
[g]
総重量①③④16
⑤18
⑥15
②⑦13
カーソル①③④5
⑤6
⑥3
②⑦2
材質 本体竹、セルロイド
接合版:アルミ
リベット:アルミ
カーソルフレーム:①B型フレームレス、②③④⑤⑥ステンレス、⑦レンズ一体型アクリル
板バネ:鉄
ウィンドウ:①②③④⑤⑥ガラス
ランナー:①セルロイド
レンズ:①(ウィンドウに接着)③④⑤ガラス、⑦アクリル

目盛り
表面A
①②③[B, C]、④⑤⑥⑦[B, CI, C]
D
裏面-
[S, L, T]
-
計・備考①②③7尺
④⑤⑥⑦8尺
その他
目盛り
ゲージ
マーク
π=3.1416【①②③⑤⑥⑦A,B,C,D尺、④C,D尺】
C=√(4/π): C,D尺の直径からA,B尺に面積を計算。【⑤⑥⑦C尺】
定規①②③上inch、下cm
④上inch
⑤⑥⑦上cm
付属品 ケース③薄豚革
④晒布に黒コーティング
①②⑤⑥⑦豚革
マニュアル
その他③裏テーブル
⑦箱
備考 特許等①ストック裏下に日英仏PAT、カーソルにPAT No.51788
その他①ケースに型押し金文字あり、エジソン蓄電池カンパニーのノベルティ

*1①エジソン蓄電池カンパニー(1901年5月27日~1932年7月30日)のノベルティより。その後はトーマスA.エジソン社の蓄電池部門を経て、1960年7月20日に Electric Storage Battery Company へ売却され、現在の Exide Technologies に至る。
*2④MIOJ="MADE IN OCCUPIED JAPAN"は1947-52年に日本からの輸出品にGHQが義務付けたもの。戦後直後の物資不足が覗われ、ケースは合皮?というより、晒(さらし)布にビニールをコーティングしたような安価な素材のためボロボロになっている。

常態・ケース表面

常態・ケース裏面

表面

裏面


2023/07/01

戦時中の商業用計算尺 HEMMI No.300

年利、月利、日歩の計算と度量衡の換算ができることから、後の商業用 Hemmi Commerce (No.263/No.143) の先祖に当たると思われる。実際に、1941年版の合名会社旭商店の綜合型録に商業用 (新製品) として掲載されている (*1)。No.300の単位は尺、坪、町など、ちょっと古い単位があったり、碼(ヤード)封度(ポンド)と漢字表記だったり、時代を窺える。戦時中の極一時期だけ作られていたと思われ(しかも1941年12月の新発売)、あまり出回らない。これはヤフオクでまとめ買いの中の一本。

器種
概要
タイトル 戦時中の商業用計算尺
ブランド HEMMI
型番 No.300
ロゴ 〇SUN〇 HEMMI
〇は太陽に光線 (クサビ形長短6本)、雲 (2本線)、左右同一
サイズ 10 "
スタイル //Closed||
システム 商業、単位換算
製造時期 1941年頃
製造国 日本
構造 【ヘンミ片面G5薄型】
裏面セルロイド
裏窓:⊃⊂切欠タイプ
接合版:アルミ
寸法
[mm]
長さ 278
33.5
厚さ 8.6
重量
[g]
総重量 56
カーソル
材質 本体 竹、セルロイド
接合版:アルミ
リベット:アルミ
カーソル 【一体型ステンレス】
フレーム:ステンレス
板バネ:鉄
ウィンドウ:ガラス

目盛り
表面 年(G), 月(E)
[月(F), 逆(CI)<, 日(C)]
日(D), M
裏面 [blank]
Edge: cm & inch measure
計・備考 7尺
その他
目盛り
ゲージ
マーク
【M尺】多数の度量衡換算用のゲージマーク
噸、瓲:トン
瓩:キログラム
封度:ポンド=0.45キログラム
貫:3.75キログラム
哩:マイル=1609メートル
碼:ヤード=0.91メートル
呎:フィート=0.3メートル
吋:インチ=25.4ミリメートル
呏:ガロン=3.8リットル
立:リットル
粁:キロメートル
糎:センチメートル
里:=3.93キロメートル
間:1.81818メートル
尺:0.30303メートル
鯨尺:0.38メートル
町:9917平方メートル=0.99ヘクタール
坪:3.30579平方メートル
定規 なし
付属品 ケース 黒のクロス紙張り厚紙、鞘方式
マニュアル 欠品(じぇいかんさんが所有している模様)
その他 裏テーブル
備考 特許等
その他

*1 じぇかんさんがマニュアルをお持ちのようで、そこには「ヘンミ事務用計算尺使用法」と題してある。

ケース、常態

表面、溝

裏面

合名会社旭商店 2601年版綜合型録より(1941年12月) 


2023/03/24

謎のDate-Codeを持つHEMMI No.259

①はオーストラリアの方から、②はヤフオクで購入。No.159の後継で、さらに後にDI尺が増えたものがNo.259Dとなる。

この2本の尺で気になるのが①の3文字 "KI A" や②の4文字 "JG H X" (但し "X" だけ刻圧が強かったのか深く大きい) のDate-Codeだ。何を示すためのものだろうか。RICOHのDate-Codeは2文字目が製造工場を示すが、そのようなものかもしれない。或いは仕向先の可能性もある。工場なら白子以外では渋谷/松山/秩父のうち稼働していたのはどこか、輸出先はどこか、OEM先ならPOST/Hughes-Owens等どの会社と取引していたか等、1959年~1960年当時の販路を調べてみないと判らないが、ここまで書いて気づいた。このモデルは2種類あり、スケール配置が異なり表裏が逆転するため stator の長短も逆 (*1) となっている。こちらは改変されたセカンドタイプだ。単純にそれを示す可能性もある (AlterのAではないか) 。(2023/4/3訂正:後で入手した②の3文字目は"H"であるためAlterの意味ではなさそうである。その後の気づきとして、Date-Code刻印に墨を入れなくなったのは "J"-1959年からのようである。何か関係があるのかもしれない。)他にこのようなCodeを持つ尺はないか、情報をお持ちの方があれば共有いただきたい。

器種
概要
タイトル 機械技術用
ブランド HEMMI
型番 ①No.259 (1st model)
②③④⑤No.259 (2nd model)
ロゴ 〇SUN〇 HEMMI JAPAN
〇は太陽に光線 (クサビ形長短8本)、雲 (2本線)、左右同一
サイズ 10 "
スタイル Duplex
システム Log-Log Duplex
製造時期 ①1952/12 (CL)
②1959/7 (JG H)
③1959/7 (JG H X)
④1960/9 (KI A)
⑤1961/1 (LA)
製造国 日本
構造 【ヘンミ両面、幅広、薄ブレース】
寸法
[mm]
長さ 長:320
短:305
44.8
厚さ 6.8
重量
[g]
総重量 132
カーソル
材質 本体 竹、セルロイド
ブレース:アルミ
リベット:真鍮
カーソル 【ステンレスフレーム】
フレーム:ステンレス
ランナー:プラスチック
板バネ:鉄
ネジ:真鍮
ウィンドウ:ガラス

目盛り
表面 ① (*1)
L, K, DF
[CF, CIF, CI, C]
D, LL0, LL/0
②③④⑤
LL/1, LL/2, LL/3, DF
[CF, CIF, CI, C]
D, LL3, LL2, LL1
裏面 ① (*1)
LL/1, LL/2, LL/3, A
[B, T, S, ST, C]
D, LL3, LL2, LL1
②③④⑤
L, K, A (*1)
[B, T, S, ST, C]
D, LL0, LL/0
計・備考 23尺、xF尺はπ切断。
その他
目盛り
ゲージ
マーク
【C尺】
C=√(4/π): C,D尺の直径からA,B尺に面積を計算。
R=57.2958度=1ラジアン (ρ°と同じ役割)
【CF,DF尺両端】
π=3.1416
【LL2尺右端,LL3尺左端】
e=2.71828
【LL/2尺右端,LL/3尺左端】
1/e=0.367879
定規 なし
付属品 ケース ①革
②紺色厚紙、鞘方式
③紺色厚紙、鞘方式
④牛革型押し、ミシン縫い
⑤欠品
マニュアル 欠品
その他
備考 特許等
その他 カーソル寸法:57x30x11.5

*1 同型番で2種類あり、A尺とDF尺の位置が表裏逆で Stator の長さも長短逆。

①表面

①裏面

①Date-Code="KI A"


②Date-Code="JG H X"

2023/03/04

魚価計算尺と比率計算尺

今回、「魚価計算尺」と「比率計算尺」を紹介したい。というのは最近たまたま「比率計算尺」の実物が発見できたのでそのバックグラウンドを調べてみると同時期に考案された「魚価計算尺」なる興味深い尺があった事が分かったからだ。

①魚価計算尺

東京市産業局商工課小売市場掛の野宗英一郎氏 (*1)、および魚類担当の月岡章郎氏が適正魚価の計算方法の研究から考案し、ヘンミの技師長だった平野氏と共同で特許を取得した。消費者(個人・大量)、小売商人、仲買人、産地、卸売会社、行政監督者が魚の適正価格を分析するのに役立つとされている。実際に試作され新聞にも掲載されたということだ。「比率計算尺」と共に広告も出されたが、当時1円(現在の約1,600円位)という高価さもあってか、結局普及しなかった。野宗氏の「草の根元で――住民の幸福のために行政の理想を求めて――」(1976年) によると、産業局にあったその試作品は残念ながら1945年3月10日の東京大空襲で焼失し、別に残っているとしても特許庁かヘンミの倉庫に埋もれているのではないか、という事だ。また、竹製ではなく円盤型で厚紙のような安価な材料で作れば大いに普及したかもしれない、と回顧している。

計算の対象が魚の値段というところはいかにも日本的だ。価格帯や重さの単位は現在と合わないが、魚種別の歩留まりや流通システムもうまく数値化しておりアイデアとして実に面白い。私の先祖は長崎五島の小漁師だったが、私がそうだったようにこの計算尺にきっと興味を持つに違いない。

使い方は、A尺に価格、滑尺に魚種(形体ごとの歩留まりを考慮した目盛り)を合わせ、卸売の売買差益率をカーソルで合わせて価格を読む、というように「東京市産業時報」の中で詳しく説明されている。

②比率計算尺(身体検査用計算尺)

ヤフオクのまとめ買いの中に入っていた大変珍しい尺。Paul Rossさんの Hemmi Slide Rule Catalogue Raisonné の second page (型番不明のリスト) には "Ratio Rule" として、マニュアルのイメージだけが紹介されているが、その実物が発見された訳だ。身体検査で使う物なので魚価計算尺と比して学校、軍隊、医療の関係機関で需要はあったのだろう。(*2)

もしかしたら古くからある学校の保健室や病院の資料室に、その古びたキャビネットの奥には、まだ眠っているものがあるかもしれない。もし見つけた方がいらっしゃれば、裏面のテーブルカードを(残念ながらこちらの方は剥がれた跡だけが残っているので)是非見せていただきたい。

使い方はスライド上の「合」マークをストック右上の身長に合わせるだけ。あとはスライド上の体重、胸囲、座高からストック左上に身長との比率(比体重 比胸囲 比座高)を読む。身長170以上は一番上の目盛り。低い体重はスライド、ストックとも下側を使う。計算可能範囲は

身長:50-195[cm]
体重・胸囲・座高:14-100 [kg|cm]
となっている。ストック右上のVゲージ(滑尺上の体重100kgのと同じ位置)は用途不明。→その後、説明書より、身長100cm以下の場合に使用するものである事が判明。

器種
概要
タイトル 幻の魚価計算尺と現物が見つかった比率計算尺
ブランド HEMMI
型番 ①魚価計算尺
②比率計算尺
ロゴ ②〇"SUN"〇
引用符""は垂直
〇は太陽に光線 (クサビ形長短6本)、雲 (2本線)、左右同一
サイズ 10 "
スタイル //Closed||
システム ①魚価
②対身長比率
製造時期 ①②1938年頃
製造国 日本
構造 ②【ヘンミ片面G5薄型】
裏面セルロイド
裏窓:⊃⊂切欠タイプ
接合版:アルミ
寸法
[mm]
長さ ②280
②33.2
厚さ ②8.5
重量
[g]
総重量 ②57
カーソル ②5
材質 本体 竹、セルロイド
接合版:アルミ
リベット:アルミ
カーソル ②【一体型ステンレス】
フレーム:ステンレス
板バネ:鉄
ウィンドウ:ガラス

目盛り
表面 ①A価格 (*3)
[B目方:歩留率・正味量 (刺身)、売買差益率、歩留率・切身量]
-
②比体重 比胸囲 比座高 身長 (*3)
[体重 胸囲 座高] (*4)
比体重の続き
裏面 -
①おそらく[blank] ②[blank]
-
計・備考 ①5尺
②4尺
その他
目盛り
ゲージ
マーク
①目方[匁](一人前30、一切25)(*5)
魚種毎の正味量[%](赤貝16、蛤24、鯉31、黒鯛38、ぼら40、鯛41、あわび43、こち45、ひらめ49、めじ51、鮪54、かじき56、鰹鱒61、鰆あなご67、鰻75)
売買差益[%](産地-10、卸売0、仲買10、小売54)
魚種毎の切身量[%](目抜鯛44、中鮪49、鯛52、鮪54、すずき64、鯖鰤67、生鮭70、鰹72、さわら74、新巻鮭77、塩鮭79)
②合(スライド)=ストック上で身長が100cmになる部分
(ストック)=スライド上で体重が100kgなる部分(身長100cm以下で使用)
定規 ②上 cm、下 inch
付属品 ケース ②黒のクロス紙張り厚紙、鞘方式、295mm、蓋120mm
マニュアル ②欠品 (Paul Rossさんのサイトで紹介されている)
その他 ①裏テーブルは表面記載以外の魚種の係数一覧
②裏テーブル欠品(おそらく使用法が記載されていた)
備考 特許等 ①特明136150:1938/2/4出願、1940/4/23登録「魚價計算尺」。東京市産業局の野宗英一郎氏、月岡章郎氏、ヘンミの平野英明氏共同。
②特明140190:1939/8/18出願、1940/12/3登録「身體檢査用計算尺」。平野英明氏。(*6)
その他

*1 野宗英一郎氏は広島出身。広島一中、岡山六高校、東大経済学科卒。銀行員を経て東京市奉職。戦後に東京都中央区長を4期務めた
*2 計算尺愛好会に、同様の機能を持つ金属の円盤型計算尺「KYS比体重・比胸囲・比座高 高速計算器」(海軍省指定工場 山越製作所)が紹介されている。
*3 尺面は旧字体が使用されている。:①賣=売、②圍=囲、㘴=坐
*4 坐高(=座高)は、「短足」の冷やかしの恐れや、生活機能との因果関係が解明されない事などの事情で現在(2016年4月以降)では測定しないらしい。
*5 匁=もんめ(1匁=3.75g)
*6 「比率計算尺」の方は宮崎治助氏の「計算尺発達史」(1956年)でも平野氏が設計に参画した主な専門計算尺13種の一つとして挙げられている。「魚価計算尺」はニッチ過ぎたのか日の目を見る事はなかったが、こうして紹介できる機会を得た事を嬉しく思う。

①1937年12月 東京市産業時報より魚価計算尺イメージ

①同、説明図

①②1938年4月 東京産業時報の広告

②常態

②表面

②裏面

②1939年1月 日本中等教育数学会雑誌の広告

②説明書

2023/02/26

HEMMI No.2664

No.2664は造りや尺面にバリエーションが多く存在する。これらの他にも、Paul Rossさんやじぇいかんさんのブログでは定規部分が無い竹面エッジのモデル等が紹介されている。①②は簡易的なケースであったり、②のセルロイドの品質から物資不足が影響したと考えられる。

器種
概要
タイトル HEMMI No.2664 バリエーション
ブランド HEMMI
型番 No.2664
ロゴ ①エッジ左②ストック裏下に〇"SUN"〇 HEMMI
③④〇SUN〇 HEMMI
①②引用符""は垂直
〇は太陽に光線 (クサビ形①②長短6本、③④8本)、雲 (2本線)、
左右同一④は間隔広め
サイズ 10 "
スタイル Closed
システム 一般技術用
製造時期 ①②1940-45?
③1947-50 (*1)
④1953/1 (DA)
製造国 日本 (③MIOJ) (*1)
構造 【ヘンミ片面G5など】
溝:①透明セルロイド②③④白色セルロイド②中央縦に切れ込みあり
裏窓:①長丸穴、②③④⊃⊂切欠+透明セルロイド
接合版:アルミ、①③穿孔あり
寸法
[mm]
長さ ①②③285
④195 (*2)
40.5
厚さ 11.2
重量
[g]
総重量 ①③93
②94
④107
カーソル 6
材質 本体 竹、セルロイド
接合版:アルミ
リベット:アルミ
③真鍮ネジ4本
④鉄ネジ4本
カーソル 【一体型ステンレス】
フレーム:ステンレス
板バネ:鉄
ウィンドウ:ガラス

目盛り
表面 K, DF
[CF, CI, C]②③④は赤CI
①②D, A+L (*3) ③④D, A
裏面 -
①②[TI2, TI1, SI2, SI1]
③④[TI2, TI1, L, SI1]
-
計・備考 ①②12尺
③④11尺
その他
目盛り
ゲージ
マーク
π=3.1416【C,D,CI尺】
C=√(4/π): C,D尺の直径からA,B尺に面積を計算。【C,CI尺】
ρ”=206265秒=1ラジアン【C尺】
ρ’=3438分=1ラジアン【C尺】
②③④√10【CF尺両端】
定規 ①上cm、下inch
②③④上inch、下cm
付属品 ケース ①黒のクロス紙張り厚紙、蓋なし、289mm
②茶のクロス紙張り厚紙、蓋なし、290mm
③黒のクロス紙張り厚紙、鞘方式、295mm、蓋113mm
④黒のクロス紙張り厚紙、鞘方式、300mm、蓋113mm
マニュアル 欠品
その他 ①裏テーブル欠品
②ケース値札に手書きで「№ HEMMI 2664 \80.80 tax \11.28?」
③裏テーブル欠品。ケース値札に「マル届?50円?物品税並サック代」(*4)
備考 特許等
その他

*1 MIOJ="MADE IN OCCUPIED JAPAN"は1947-52年に日本からの輸出品にGHQが義務付けたもの。③には1950年以降のDate Stampが無いため1947-50年頃と推測。
*2 この頃、10インチ片面"//Closed||"の長さが295mmに統一される。
*3 A尺とL尺を1単位ずつ半分割り当てた目盛り。A尺の11-100が無いのはともかく、L尺の0.1-0.5はDF尺に対応するので、なるほど半分で済む。
*4 マル届=届出価格。戦時の物価統制のマル公価格から自由価格に戻る際に暴利行為、不当高価取締のために設けられた。

常態

正面、溝

裏面

ケース表

ケース裏

2023/02/19

BARBOTHEU Mannheim 25cm, 12cm

非常に情報が少ないがフランスのバルボテウ社 (*2) のマンハイム。別のモデルでは原料の木は堅く密度の高い Zapatero という情報もあるが、少し白っぽいので Boxwood の可能性がある。ストックは溝部分の台、ベベル、エッジ計3枚の板が接着されているだけで、接合部品はなく調節は不可能だがスライドとの密着度合はなかなか良い。②厚みがありポケットサイズの割に少し重く、カーソルフレームも他では見られないマットな感触で持ち物としての満足感は得られると思う。幅と厚さは①②ともほぼ同じで、カーソルのサイズも同じである。

器種
概要
タイトル フランスのポケットサイズマンハイム
ブランド BARBOTHEU
型番 ①240?
②不明
ロゴ BARBOTHEU PARIS
サイズ ①25 cm (10 ")
②12 cm (5 ")
スタイル //Closed||
システム Mannheim
製造時期 最遅で1913年頃
製造国 フランス
構造 正面、ベベル、エッジ、滑尺、溝:セルロイド
裏窓:長丸穴タイプ (*3)
寸法
[mm]
長さ ①280
②150
29.6
厚さ ①11.2
②11
重量
[g]
総重量 ①75.6
②42
カーソル 7
材質 本体 Zapatero or Boxwood、セルロイド
カーソル アルミ矩形
フレーム:アルミ (②防さび処理か艶消しの黒)
板バネ:鉄
ウィンドウ:ガラス

目盛り
表面 A
[B, C]
D
裏面 -
[S, L, T]
-
計・備考 7尺
目盛線タイプ:Railway track
その他
目盛り
ゲージ
マーク
①【A,B尺】②【A,B,C,D尺】
π=3.1416
①【A,B尺】
’=3438分=1ラジアン
”=206265秒=1ラジアン
①【C,D尺】
C=√(4/π): C,D尺の直径からA,B尺に面積を計算。
C1=√(40/π): Cと同様だがA,B尺の2単位目 (10~100) に対応。
定規 上 cm
下 cm
溝延長 cm
付属品 ケース 欠品
マニュアル
その他 裏面テーブルは貼り付けられた上からニスが塗布してある。
備考 特許等
その他 ②使用者独自のゲージマークが刻まれている:
  • 1.61辺りにM|K(mile|km)
  • 3.28辺りにM/FEET(m/feet)
  • 39.4辺りにM|IN(m/inch)
  • 0.454辺りにG.LB|L.KL(ポンド/キロ)
  • A尺62辺りにM|K(km/mile)

*1 フランスなのでインチではなくセンチを使用。1913-14のカタログによると、20cm, 25cm, 35cm, 50cmのモデルがある。(12cmは記載されていない)
*2 Georges Barbotheu (1857-1925) ジョルジュ・バルボテウ (発音はバルボテュー、バルボシューに近い?) は、1885年に精密機器、製図品、測量機器を製造する会社を設立。計算尺は 1888年~1913年の間、製造していたと思われる。
*3 HEMMI 片面”//Closed||” 型のG1~G2の裏窓と同様の位置と形。HEMMI の尺は基本的にA.W.FABERの模倣が多いが、裏窓だけはバルボテウ社のようなものを採用したようだ。

常態



溝、滑尺裏

②右エンド
ストックとスライドの相性が良い組に同じ番号を振った